二五、五善五悪 【出拠】 『大経』の五悪段の文。 【義相】  一、論定物体   @五悪とは殺生、偸盗、邪婬、妄語、飲酒なり。五善は之に反す。【浄影・憬興の説、会疏及び論要は此義による】   A身業の三悪を初めの三とし、口四を合せて第四とし、意三の悪を合せて第五とする。【義寂の説、僧鎔この説を用ふ】   B第一義と大同小異にて、第四は口の四悪を収むとする。【法位の説】   C強いて五戒にも局らず、此の経一途の説のみ、此の五悪の中に、世間の諸悪を摂す。【要解の説】   D五濁に配する義。【僧鎔の説】 問。五義の中、何れに従うや。 答。第一義による。第一悪は殺生業を根本業として余の悪を加行後起とす。第二悪は偸盗を根本として、余悪を加行後起とする。余の三も准知すべし。五善とは五常なり【四教義集註に詳しく配属する】彼の世教の仁義礼智信と義は同なれども、愚なる者に知り易からしめんが為に、五悪を誡め五善を勧めて、殺すな、盗むな、漫りに婬するな、虚言するな、大酒を飲むなと誡しむるなり。彼の聖道の羯摩の作法を取ると同じからず。  二、説意   @因果撥無の邪見を摧破して厭欣心を生ぜしめんための故に=易往而無人の文より伺う『行巻』所引の『目蓮所問経』と対照すべし。   A信機の相状を詳にせんがための故に=流通・付属の文より逆見す、『如来会』付属の文に「能く一念喜愛之心を生ぜば〈乃至〉心下劣無く《法実を信ずる相》」又続いて「貢高ならずば《機の本分を信ずる相》」とあるが故に。   B信後の行状を示さんための故に=弥勒領解の文より伺うなり。(已上弘願真実に約す) 問。無為涅槃の果を与うる時は五善即往因に非ずや。 答。若し未熟の機より見れば五善を以て終に涅槃を期する義もあるべし。上の三輩自力の機執を以て見下す時は信後処世の勧誡にして来世苦楽の果を以て今世の人道を履行せしむるを目的とする。度世上天の報を希求せしむるために非ず。 問。世善の五常と今と同異云何。 答。一世安民のための五善なれば世教に斉しけれども、来世の果を以て因を勧むれば彼と異なり。 問。他門に説く五戒と今と同別如何。 答。彼は来世のためにす。今は来世の果を以て今世のためにするなり。 【已上】