二九、特留此経
【出拠】
一、『大経』「われ慈悲をもて哀愍してことにこの経をとゞめて止住すること百歳せん」《一〇三》
二、『安楽集』「第三に経の住滅を弁ぜば」（Ⅰ・四二七）等
三、『往生礼讃』「万年に三宝滅せんに、此の経住すること百年せん〈乃至〉皆当に彼に生ずることを得べし」（Ⅰ・六六一）
四、『往生要集』「末後法滅之時、特に此の経を留めて百年世に在らしめて衆生を接引して彼の国土に生ぜしめんと」（Ⅰ・七七六）
五、『選択集』（Ⅰ・九五三）特留章
六、『二巻鈔』《六四五》に正依の経文を引き、更に『大阿弥陀経』を引き「我れ皆慈哀して特に是の経法を留どめて止住せんこと百歳せん」云々。 

【名義】
　特は独なり、留は止なり、斯の経は能詮の経文なり。若し所詮に就かば念仏。
【『選択集』の特留念仏】なり。


問。斯経とは黄巻赤軸を指すや。
答。仏法に二あり、一に勝義仏法（教理行果）、二に世俗仏法（言詮黄巻赤軸）なり。若し世俗仏法滅すれば勝義仏法も亦滅す。是れ勝義仏法は壁石等に寄て存在する能はざればなり。
【義相】
　滅尽年時＝十二説（此説多く行蔵所載）。
　一、四十年隠滅（北本『涅槃経』）
　二、一千五百入滅（『摩訶摩耶経』）
　三、五個五百年入滅（『大集経』【『安楽集』引】）
　四、「入滅年代を説かず」（『法滅尽経』）
　五、人寿十歳暫滅、百歳再起、七万歳永滅（『法住記』）
　六、一千年入滅（『大阿弥陀経』『倶舎論』）
　七、二千年入滅（真諦三蔵『毘婆沙』を引く）
　八、五千年入滅（善見律）
　九、一万二千年入滅（祇園精舎之銘【六個の異説を嘉祥『中論疏』に挙げる中に云々】）
　一〇、八十年、八百年、八千年入滅（『仁王経』）
　一一、二十一劫入滅（『所胎経』）
　一二、五十年以後入滅（『仏祖統記』） 
【問答料簡】
問。諸経の滅時に定説なきは如何。
答。『珠林』に「正法は法を行ずる者に随ふて住することの久近あることを顕さんと欲するが故に」と、又『涅槃会疏』に「蓋し縁に濃淡あるが故に、説に奢促あらしむることを致す」と、依て滅時に定説なきなり。
問。正依の経は何年入滅なりや。
答。万年滅とす。正像末とは法の存滅を顕はす換言なり。
問。諸経何故に滅するや。
答。廃悪修善の法は、増悪の時機不堪の故に滅し、浄土法は時機に関せざるが故に留まるなり。
問。時機に拘はらざれば不滅なるべし。何ぞ止住百歳の後滅すと云ふや。
答。弥陀法と雖も護持せざれば沒す。故に未来の護持を励まさしめんが為に滅と説くなり。
問。百歳は但数なりや満数なりや。答。満数なるべし、何者万年三宝の満数の万に対するが故に。 
【已上】