鮮妙和上語録


 三毒煩悩の増長

畜生(ちくしょう)は残害殺戮(ざんがいさつりく)の悲しみに逢ふて愈(いよいよ)愚痴(ぐち)を増し、
餓鬼(がき)は飢渇(きかつ)の苦に逢ふて愈(いよいよ)貪欲(とんよく)を盛にし、
地獄は熱地銅丸(ねっちどうがん)の苦に逢ふてますます瞋恚(しんに)を猛(たくまし)くする。
(あたか)も喉の渇いたる時、醤油を呑めば渇き却つて増すが如し。

 古郷(ふるさと)の癖

古郷(ふるさと)の癖はのかぬ。
我孫にさへ国なまりぢやとて笑はるゝことがまゝあると云ふ話である。
御互(おたがひ)の三毒の煩悩は三悪道の古郷の癖である。
これで三悪道から来たことが知られます。

 知足安分(ちそくあんぶん)

(すべ)て世の中の事は何事も楽しみに日を送らうと、悲しみに世を渡らうと、唯目の付けやう次第であります。
例へば此に百圓の金があるとします。此金を拾圓に比ぶれば充分です。千圓に比ぶれば不足です。
どうせ同じ百圓の金なら不足に思ふて使ふより満足に思ふて使ふがよい。
人間一生も上を眺むれば不足となり、下に臨むれば満足となる。
どうせ五十年の一生なら、泣ひて送らうより喜んで暮らすが増しぢや。
気楽に暮らす方法は少欲知足(しょうよくちそく)であります。斯く云へば、それは消極的の楽観ぢや。
積極的でなけねばならぬと云ふ人があるかもしれぬが、人間界に於て積極的の満足はとても得らるゝものでない、
なぜと云ふに私共の貪欲は海の如く、進めば進むほど深くなつて邊際(はし)がない。
知足安分と云ふことを知らねば遂に沈没を免れませぬ。